# **2030年世界予測:日本市場への戦略的示唆** * Bank of America Global Researchレポートの考察に基づくインサイト \- **作成者:YOSHI.TOMO FURUSAWA** --- ## **序文:なぜ今、この白書が必要なのか** 2030年に向けた世界は、単線的な未来予測が不可能な、複雑かつ多層的な変革の時代に突入している。Bank of America (BofA) Global Researchが発行したレポート「The world in 2030」は、この変革を駆動する8つのメガトレンドを鮮やかに描き出し、世界が直面するであろうパラダイムシフトの輪郭を提示した。 しかし、グローバルな視点から描かれた未来像を、そのまま日本市場に当てはめることはできない。日本は、世界でも類を見ない速度で進行する人口動態の変化、特異な産業構造、そして独自の社会的価値観といった、固有の文脈を持つからだ。 本白書は、BofAの優れた分析を「出発点」とし、そこに私自身の独自の調査と考察を加えることで、これらのメガトレンドが日本市場に具体的にどのような影響(インプリケーション)を及ぼすのかを解き明かすことを目的とする。さらに一歩踏み込み、日本の特殊性を考慮した場合、グローバルな潮流とは異なる、あるいはそれを乗り越える「日本独自の未来」はあり得るのか、という戦略的な問いを立て、その可能性を探求する。 本稿は、以下の三層構造で各メガトレンドを分析する。 1. **【Bank of Americaの視点】**: オリジナルレポートが提示するグローバルな潮流とデータを要約する。 2. **【日本市場へのインプリケーション】**: その潮流を日本の現実に当てはめた場合、どのような機会と課題が生まれるかを分析する。 3. **【日本独自の展望と戦略的考察】**: 日本特有の要因を鑑み、世界とは異なる展開の可能性や、日本が取るべき独自の戦略について私見を交えて論じる。 この多角的な分析を通じて、日本のビジネスリーダーが不確実な未来を航海するための、より実践的で深い洞察を提供することを目指すものである。 --- ## **Part 1: テクロジーと社会基盤の再定義** ### **Section 1: テクノロジーが世界を飲み込む** #### **【Bank of Americaの視点】** BofAのレポートは、テクノロジーが「インダストリー5.0」(人間と機械の協働)から、人間による介入を最小限に抑える「インダストリー6.0」へと移行する未来を描いている 1。この変革は、自律的に意思決定を行う「エージェントAI」、人間のあらゆる知的作業を代替しうる「汎用人工知能(AGI)」、そして2025年にも実用化の兆しが見える「量子コンピューティング」によって加速される 1。レポートによれば、AGIの実現は「勝者総取り」のシナリオであり、最初に到達した国家や企業が絶大な優位性を手にすると警告している 1。また、AIによる高度なシミュレーションは、新薬や新素材の発見を劇的に加速させている 1。 #### **【日本市場へのインプリケーション】** BofAが示すテクノロジーの進化は、日本においても国家戦略の中核に位置づけられている。政府は「AI戦略2022」や、基盤モデル開発を支援する「GENIAC」プロジェクトを推進 2。さらに、2025年を「量子産業化元年」と定め、「Quantum-Readyな日本」の実現を目指している 5。 この戦略は具体的な成果を生み出しつつある。理化学研究所と富士通は、2025年4月に世界最大級の256量子ビット国産超伝導量子コンピュータを開発し、2026年には1,000量子ビット級を目指すとしている 6。産業界でも、三菱UFJ銀行が生成AI導入で月間22万時間の労働時間削減を見込むなど 9、AIはすでに生産性向上の具体的なツールとなっている。 #### **【日本独自の展望と戦略的考察】** ここで重要なのは、日本が直面する「深刻な労働力不足」という国家的課題である。欧米で主流の「AIによる雇用喪失」という議論とは対照的に、日本ではAIによる自動化は、社会の存続を左右する核心的課題への「解決策」となりうる。 BofAが予測する「エージェントAI」の台頭は、日本にとっては物理的な労働人口の減少を補う「デジタル労働力」の創出を意味する。これは脅威ではなく、むしろ生産性モデルを根底から変革する千載一遇の好機と捉えるべきだ。 したがって、日本企業が目指すべきは、単なる技術導入に留まらず、人間とAIエージェントがシームレスに協働する新たなワークフローと組織モデルにおいて、世界標準を確立することである。例えば、製造業ではデンソーが生成AIでロボットのプログラム作成工数を削減したように 11、金融業では三菱UFJ銀行が定型業務をAIに任せるように 9、人間はより創造的で高度な監督・判断業務にシフトする。この「人間とデジタルのハイブリッド労働」モデルを社会全体で最適化できれば、日本は人口動態上の弱みを、21世紀型の生産性における世界的な強みへと転換させることが可能となるだろう。 --- ### **Section 2: デジタル・インセキュリティ** #### **【Bank of Americaの視点】** テクノロジーの進化は、光だけでなく深い影も落とす。BofAは、サイバー犯罪による経済的損失が2029年から2030年にかけて年間15.63兆ドルに達し、米国、中国に次ぐ世界第3位の「経済大国」に匹敵する規模になると警告している 12。この脅威は、攻撃を巧妙化・大規模化させるAIによって増幅される 1。さらに深刻なのは、ディープフェイク技術の拡散による「信頼の侵食」である。レポートは、2027年までにディープフェイクによる損害額が400億ドルに達し、「地球上の全人類に対して10個のディープフェイクが存在する」未来を予測している 1。 #### **【日本市場へのインプリケーション】** 日本もこの脅威と無縁ではない。政府機関へのセキュリティインシデント報告件数は2021年度から2024年度にかけて約6倍に急増 13。特に重要インフラが標的となるケースが増加しており、2024年には報告の半数以上がサイバー攻撃に起因するものだった 13。この事態を受け、日本政府はサイバーセキュリティ政策の歴史的な転換に踏み切った。従来の受動的な防御から、脅威を無力化するためのより積極的な措置を可能にする「能動的サイバー防御」の法制化を進めている 13。 #### **【日本独自の展望と戦略的考察】** BofAが示すグローバルな脅威に対し、日本の対応は「国家安全保障」という文脈で捉えることで、その独自性が際立つ。「能動的サイバー防御」は、単なる技術的な対策強化ではなく、サイバー空間における脅威を国家への攻撃と見なすという、安全保障思想の転換である。 さらに興味深いのは、この動きが地方自治体レベルにまで及んでいる点だ。政府は全国の自治体に対し、サイバー攻撃を自然災害と同等の「災害」と位置づけ、対策基本方針の策定を義務付けた 15。これは、中央集権的な安全保障だけでなく、国民生活の隅々にまでサイバーレジリエンスを浸透させようとする、日本的なアプローチと言える。 企業にとってこれは、サイバーセキュリティが単なるIT部門の課題ではなく、事業継続計画(BCP)やコーポレート・ガバナンスの根幹に関わる経営マターであることを意味する。特に、サプライチェーン全体でのセキュリティ担保が求められる中、取引先の選定基準にサイバー対策の成熟度を組み込むといった、新たなリスク管理手法が不可欠となるだろう。 --- ### **Section 3: あらゆるものの需要増大** #### **【Bank of Americaの視点】** AI革命というデジタルの指数関数的な成長は、物理世界の資源に対する前例のない需要を生み出している。BofAのレポートによれば、世界のデータセンターの電力消費量は2022年から2026年のわずか4年間で倍増し、日本の年間総電力消費量に匹敵する1,000TWhを超えると予測されている 16。冷却に必要な水の消費量も2030年までに1日あたり330万人の生活用水に相当する規模に達するという 1。また、半導体やバッテリーに不可欠な重要鉱物は、供給が特定の地域に偏在しており、深刻な地政学的リスクをもたらすと指摘している 1。 #### **【日本市場へのインプリケーション】** この「物理的な制約」は、資源に乏しい日本にとって特に深刻な課題である。一説には、2030年までに日本で増加する電力需要の半分以上がデータセンターによって占められると予測されている 17。この国家的課題に対し、政府は経済安全保障の柱として「重要鉱物」を特定し、その安定供給確保に向けた政策を強力に推進 18。民間企業による海外権益の確保や国内製錬能力の強化に対し、大規模な補助金を提供する「供給確保計画」認定制度を創設した 20。 #### **【日本独自の展望と戦略的考察】** BofAが示す資源制約は、日本にとっては弱みであると同時に、新たな強みを生み出す触媒にもなりうる。歴史的にオイルショックなどを乗り越えてきた日本は、省エネルギー技術や資源リサイクルにおいて世界トップクラスのノウハウを蓄積している。 AIデータセンターのエネルギー問題に対し、日本は単に発電量を増やすだけでなく、「エネルギー効率を極限まで高める」というアプローチで世界をリードできる可能性がある。例えば、冷却効率の高いデータセンター設計、AIの計算処理そのものを効率化するソフトウェア技術、そして洋上風力発電のような再生可能エネルギーへの大胆な投資 22 を組み合わせることで、持続可能なデジタルインフラのモデルケースを構築できるかもしれない。 また、住友金属鉱山や日本重化学工業などが国の支援を受けて進める重要鉱物の確保・製錬プロジェクト 20 は、単なる資源確保に留まらない。これは、特定の国への依存から脱却し、同志国との連携を深めながら、より強靭で信頼性の高いサプライチェーンを構築するという、日本の地政学的戦略の現れでもある。資源の乏しさをバネに、技術と外交で課題を克服する。これこそが、日本が取るべき独自の道筋であろう。 --- ### **Section 4: すべての再構築** #### **【Bank of Americaの視点】** 世界は大規模な「再構築」の時代に突入している。BofAは、G20とオックスフォード・エコノミクスの試算を引用し、2040年までに世界が必要とするインフラ投資総額は94兆ドルに上るが、現在のトレンドでは18兆ドルもの資金が不足する「インベストメント・ギャップ」が生じると警告している 24。この需要は、脱炭素化、電化、製造拠点の国内回帰(リショアリング)、そして都市化といった複数のトレンドが複合的に絡み合って生まれている 1。 #### **【日本市場へのインプリケーション】** 日本は、このインフラ問題において特に深刻な課題を抱える「課題先進国」である。高度経済成長期に整備されたインフラが一斉に寿命を迎え、国土交通省の予測では、2030年には国内の道路橋の約5割、トンネルの約3割が建設後50年を経過する 27。この危機に対し、政府は損傷が深刻化する前に対応する「予防保全」へと方針を転換 27。その中核をなすのが、AIやドローンを活用する「インフラDX」であり、AIによるひび割れ点検では人間を大幅に上回る検知率が実証されている 27。 #### **【日本独自の展望と戦略的考察】** BofAが示す世界的なインフラギャップに対し、日本は最も深刻な課題を抱えているがゆえに、最も先進的な解決策を生み出すポテンシャルを秘めている。日本の「インフラ老朽化」は、単なる問題ではなく、新たな高成長産業「インフラテック」を創出する巨大な国内市場と捉えるべきだ。 政府が推進する「インフラDX」は、この新市場の起爆剤となる。AIによる劣化予測 28、ドローンによる点検、修繕用ロボット、デジタルツイン・プラットフォームといった技術を持つスタートアップや既存企業にとって、これは千載一遇の事業機会である。 世界に目を向ければ、多くの先進国が数十年後には日本と同じ問題に直面する。日本がこの「課題先進国」としての経験を活かし、インフラテック分野で世界標準となる技術やビジネスモデルを確立できれば、それは将来の日本の重要な輸出産業となりうる。課題の深刻さが、イノベーションの母となる。この逆転の発想こそ、日本が取るべき戦略的アプローチである。 --- ## **Part 2: 地政学と社会構造の変化** ### **Section 5 & 6: ポピュリズム、戦争と平和** #### **【Bank of Americaの視点】** BofAのレポートは、効率性を最優先したグローバル化の時代が終わりを告げ、国家の安全保障と経済が不可分に結びつく「経済安全保障」の時代が到来したと分析している 1。世界各地で台頭するポピュリズムは、グローバル化の縮小、移民規制、保護主義的な通商政策となって現れている 1。その象徴が2018年からの米中貿易戦争であり、これにより米国の関税率は1930年代以来の最高水準にまで引き上げられた 1。この対立は先端技術の覇権を巡る競争へとエスカレートし、企業のサプライチェーン戦略は、もはやコスト最適化だけでなく、地政学的リスクを織り込んだ高度なリスクマネジメントが求められるようになったと指摘している。 #### **【日本市場へのインプリケーション】** 日本もこの世界的な潮流に迅速に対応している。2022年に成立した「経済安全保障推進法」は、この新時代における日本の国家戦略の根幹をなす 29。同法は、特定重要物資のサプライチェーン強靭化や先端技術の育成などを柱とし、官民一体で経済的な脆弱性に対処する法的枠組みを整備した 29。同時に、安全保障政策も歴史的な転換点を迎え、防衛費をGDP比2%に増額する方針を決定。その財源として法人税、所得税、たばこ税の増税などが議論されている 31。 #### **【日本独自の展望と戦略的考察】** BofAが指摘する脱グローバル化と保護主義の波は、資源を海外に依存し、貿易立国として発展してきた日本にとって極めて大きな挑戦である。米中という二つの巨象の狭間で、日本は「自律性(他国に依存せず生き残る力)」と「不可欠性(他国から必要とされる力)」をいかに両立させるかという、高度な戦略的舵取りを迫られている。 経済産業省が策定した「産業・技術基盤強化アクションプラン」は、その処方箋の一つを示唆している 34。それは、単に守りを固めるだけでなく、AIやロボット技術を積極的に活用し、物量勝負ではない高付加価値な「新たな製造業(製造業X)」を創出することで、日本の優位性を「不可欠性」にまで研ぎ澄ますという構想だ 34。 これは、日本が単に大国のルールに従うのではなく、自らの強みを活かして新たな国際分業体制の中で独自の地位を築こうとする野心的な試みである。例えば、先端半導体の素材や製造装置、あるいはインフラテックのソリューションなど、日本の技術がなければ世界のサプライチェーンが成り立たないような領域を戦略的に構築していく。地政学的リスクを逆手に取り、日本の産業構造そのものを変革する。これこそが、日本独自の生存戦略となりうるだろう。 --- ### **Section 7: Z世代とブーマー世代の台頭** #### **【Bank of Americaの視点】** 2030年に向けた世界経済は、二つの巨大な人口動態の波に揺さぶられる。一つは、デジタルネイティブであるZ世代(1996~2016年生まれ)が経済の主役に躍り出る波だ。彼らの世界全体の所得は、2023年の9兆ドルから2030年には36兆ドルへと爆発的に増加すると予測されている 1。もう一つは、歴史上最も裕福なベビーブーマー世代(1946~1965年生まれ)が引退期を迎え、その莫大な資産を次世代へ移転し始める波である。米国だけでも、2045年までに84兆ドルもの資産が若い世代に引き継がれる「大資産移転」が本格化するとBofAは指摘する 1。 #### **【日本市場へのインプリケーション】** 日本においても、Z世代の価値観は消費市場に大きな影響を与えている。彼らはオンラインでの情報収集を駆使し、かけた時間に対する効果を最大化する「タイムパフォーマンス(タイパ)」と、価格に対する価値を重視する「コストパフォーマンス(コスパ)」を徹底的に追求する 35。また、企業の社会的責任やサステナビリティへの意識も高い 35。一方で、ブーマー世代からの資産移転は、BofAが示す米国のようには進まない可能性がある。 #### **【日本独自の展望と戦略的考察】** ここに、日本が直面する極めてユニークな課題が浮かび上がる。それは「相続人の高齢化」である 38。長寿化により、資産を相続する子供世代(団塊ジュニア世代など)もすでに50代から60代に差し掛かっている。その結果、資産が「高齢者」から「準高齢者」へと移動するだけで、リスクを取った投資や活発な消費に回りにくいという構造的な問題が生じている 38。 これは、米国で期待されるような「大資産移転」による経済活性化が、日本では起こりにくいことを示唆している。金融機関にとっては、単なる相続ビジネスではなく、高齢化した親子二世代にわたる資産管理や、長生きリスクに備えながらいかに資産を次世代の成長分野に循環させるか、といった新たなソリューションの提供が求められる。また、企業は、タイパを重視しデジタル空間を生きるZ世代と、資産は豊富だが将来不安から消費に慎重な高齢層という、全く異なる二つの市場に、それぞれ最適化された商品・サービスを同時に提供するという、高度なマーケティング戦略が不可欠となるだろう。 --- ## **Part 3: 新たな価値観としての「健康」** ### **Section 8: 健康は新たな富** #### **【Bank of Americaの視点】** BofAのレポートは、「健康」が新たな富の源泉となり、巨大な経済圏を形成する未来を予測している。病気の治療を中心とした「ヘルスケア」から、健康を維持・増進する「ウェルネス」へと価値の中心がシフトする。Global Wellness Instituteの調査を引用し、世界のウェルネス経済は2028年には約9兆ドルに達し、世界の製薬産業市場を大幅に上回る規模になると指摘している 41。この変革を牽引するのがテクノロジーであり、AIは創薬プロセスを根底から覆し、AI医療エージェントは2030年までに1,000万人不足するとされる医療従事者のギャップを埋める可能性を秘めている 1。また、GLP-1作動薬のような画期的な医薬品は、肥満症治療に留まらず、心血管疾患などへの適応拡大が期待され、市場は2030年までに1,000億ドルを超えると予測されている 42。 #### **【日本市場へのインプリケーション】** 日本は、BofAが示す「健康は新たな富」というトレンドを社会実装する上で、先進的な取り組みを進めている。経済産業省が推進する「健康経営」は、従業員の健康をコストではなく、企業の生産性向上に繋がる「戦略的投資」と位置づけるもので、多くの企業が認定取得に動いている 43。テクノロジー分野でも、AI創薬スタートアップが次々と大型の資金調達に成功 46、AI問診システムが医療現場の効率化に貢献し 48、ソフトウェアで病気を治療するデジタル治療(DTx)も日本で承認され始めている 50。GLP-1作動薬も国内で承認されているが、美容目的での適応外使用が問題視され、学会などが注意喚起を行っている 53。 #### **【日本独自の展望と戦略的考察】** BofAが描くウェルネス経済の未来において、日本は世界をリードする独自のポジションを築ける可能性がある。その鍵となるのが、日本独自の「健康経営」というコンセプトと、国民皆保険制度の下で蓄積された質の高い医療データである。 「健康経営」は、単なる福利厚生ではなく、人的資本への投資として企業価値向上に繋げるという、世界的に見ても先進的なアプローチだ。これが社会全体に浸透すれば、企業が主導する形で「予防・健康増進」サービスの一大市場が形成される。これは、個人の自己責任に委ねられがちな欧米のウェルネス市場とは一線を画す、日本ならではのモデルとなりうる。 さらに、AI創薬やデジタルヘルスケアの分野では「データ」が競争力の源泉となる。日本は国民皆保険制度により、全国民の長年にわたる質の高い医療データが蓄積されている。このデータを、個人情報保護に最大限配慮しつつ、新たな治療法やサービスの開発に戦略的に活用できれば、それは他国にはない圧倒的な競争優位性となる。AI創薬とデジタルヘルスケアが連携する「バイオ・デジタル・フィードバックループ」を、日本の高品質なデータを燃料として駆動させる。この構想を実現できれば、日本は「健康生産」革命のグローバルリーダーとなるポテンシャルを秘めている。 --- ## **結論:2030年に向けた日本独自の戦略** 本白書でBofAのレポートを基点に分析した8つのメガトレンドは、日本市場の文脈において、それぞれ独自の意味合いを持つことが明らかになった。グローバルな潮流と日本の特殊性が交差する点にこそ、我々が取るべき戦略の核心がある。 1. 「課題先進国」を「ソリューション輸出国」へ転換せよ。 労働力不足、インフラ老朽化、超高齢社会。これらは日本の弱みとされてきたが、見方を変えれば、世界が数十年後に直面する課題の最前線である。AIによる「デジタル労働力」の社会実装、AIを活用した「インフラテック」、そして「健康経営」を基盤としたウェルネス社会モデル。これらの領域で世界に先駆けて解決策を創出し、社会システムとして実装できれば、それは将来、世界に輸出できる日本の新たな強みとなる。 2. 「経済安全保障」を、産業構造転換の好機と捉えよ。 米中対立を背景とする脱グローバル化の波は、貿易立国日本にとって大きな脅威である。しかし、それは同時に、従来の物量やコストを前提とした産業構造から脱却し、日本の技術的優位性を活かした高付加価値な「新たな製造業(製造業X)」へと転換する絶好の機会でもある。他国が模倣できない「不可欠性」を戦略的に構築することこそが、日本の新たな生存戦略である。 3. 「眠れる資産」を次世代の成長へ循環させる仕組みを構築せよ。 世界でも有数の規模を誇る日本の個人金融資産は、その多くが高齢層に偏在し、リスクマネーとして市場に十分に供給されていない。この「相続人の高齢化」という日本独自の課題に対し、金融機関や政府は、長生きリスクに配慮しつつ、これらの資産をAI、グリーン、ウェルネスといった次世代の成長分野へと円滑に循環させるための新たな金融商品や税制を設計する必要がある。 2030年への道は、単一の正解が存在しない。しかし、グローバルなメガトレンドを鵜呑みにするのではなく、日本の独自の文脈の中でその意味を再定義し、弱みさえも強みに転換する戦略的思考を持つこと。それこそが、これからの10年を勝ち抜くための唯一の羅針盤となるであろう。 #### **Works cited** 1. world-in-2030-part-2.pdf 2. AI戦略2022の概要 \- 内閣府, accessed August 11, 2025, [https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/aistrategy2022\_gaiyo.pdf](https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/aistrategy2022_gaiyo.pdf) 3. 【賞金8億円】経済産業省、AIの社会実装を加速する「GENIAC-PRIZE」プロジェクトを発表, accessed August 11, 2025, [https://ops-today.com/topics-11481/](https://ops-today.com/topics-11481/) 4. 令和 6 年 6 月 デジタル時代の人材政策に関する検討会 \- 経済産業省, accessed August 11, 2025, [https://www.meti.go.jp/press/2024/06/20240628006/20240628006-b.pdf](https://www.meti.go.jp/press/2024/06/20240628006/20240628006-b.pdf) 5. 統合イノベーション戦略 2025 \- 内閣府, accessed August 11, 2025, [https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/togo2025\_zentai.pdf](https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/togo2025_zentai.pdf) 6. 世界最大級の256量子ビットの超伝導量子コンピュータを開発 : 富士通, accessed August 11, 2025, [https://pr.fujitsu.com/jp/news/2025/04/22.html](https://pr.fujitsu.com/jp/news/2025/04/22.html) 7. 【日本が完成させた】量子コンピューターとは何か?すべての世界はこう変わる!【2030年の衝撃】, accessed August 11, 2025, [https://www.youtube.com/watch?v=nMv1asQ8niQ](https://www.youtube.com/watch?v=nMv1asQ8niQ) 8. 【世界最大級】256量子ビットの量子コンピューターを発表! 【理研・富士通】 \- YouTube, accessed August 11, 2025, [https://www.youtube.com/watch?v=bw-4oRF92VY](https://www.youtube.com/watch?v=bw-4oRF92VY) 9. 金融業務を生成AI活用で効率化:実務事例10選を紹介 | NOVEL株式会社, accessed August 11, 2025, [https://n-v-l.co/blog/AI-finance](https://n-v-l.co/blog/AI-finance) 10. 金融業界を革新する生成AI導入事例:業務効率化と顧客サービス向上 | NOVEL株式会社, accessed August 11, 2025, [https://n-v-l.co/blog/CepsYR\_x](https://n-v-l.co/blog/CepsYR_x) 11. 【厳選12社】生成AIのDX活用事例と3つの導入ポイントを徹底解説, accessed August 11, 2025, [https://ai-keiei.shift-ai.co.jp/ai-dx-case-study/](https://ai-keiei.shift-ai.co.jp/ai-dx-case-study/) 12. Cybersecurity statistics: 100+ stats to know in 2025, accessed August 11, 2025, [https://cybersecurity.asee.io/blog/cybersecurity-statistics/](https://cybersecurity.asee.io/blog/cybersecurity-statistics/) 13. サイバーセキュリティ 2025 (2024 年度年次報告・2025 ... \- NISC, accessed August 11, 2025, [https://www.nisc.go.jp/pdf/policy/kihon-s/250627cs2025.pdf](https://www.nisc.go.jp/pdf/policy/kihon-s/250627cs2025.pdf) 14. サイバーセキュリティ政策の 現状と動向について, accessed August 11, 2025, [https://www.sec-dogo.jp/online/download/kicho.pdf](https://www.sec-dogo.jp/online/download/kicho.pdf) 15. 【日本】サイバーセキュリティ政策動向レポート(2025年3月31日〜4月6日) \- note, accessed August 11, 2025, [https://note.com/josys0901/n/nfeaa175d6582](https://note.com/josys0901/n/nfeaa175d6582) 16. “Significant concerns” raised over impact of data center growth on ..., accessed August 11, 2025, [https://www.itpro.com/infrastructure/data-centres/significant-concerns-raised-over-impact-of-data-center-growth-on-regional-energy-grids](https://www.itpro.com/infrastructure/data-centres/significant-concerns-raised-over-impact-of-data-center-growth-on-regional-energy-grids) 17. Chart: Data Center Energy Consumption Surges Amid AI Boom \- Statista, accessed August 11, 2025, [https://www.statista.com/chart/34295/data-centers-electricity-generation-source/](https://www.statista.com/chart/34295/data-centers-electricity-generation-source/) 18. サプライチェーン強靱化の取組(重要物資の安定的な供給の確保に関する制度) \- 内閣府, accessed August 11, 2025, [https://www.cao.go.jp/keizai\_anzen\_hosho/suishinhou/supply\_chain/supply\_chain.html](https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/suishinhou/supply_chain/supply_chain.html) 19. 重要鉱物に係る安定供給確保を図るための取組方針(案), accessed August 11, 2025, [https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000272217](https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000272217) 20. 重要鉱物 (METI/経済産業省), accessed August 11, 2025, [https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic\_security/metal/index.html](https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/metal/index.html) 21. 重要鉱物助成金交付事業 : 金属資源開発 \- JOGMEC, accessed August 11, 2025, [https://www.jogmec.go.jp/metal/metal\_10\_00001.html](https://www.jogmec.go.jp/metal/metal_10_00001.html) 22. これまでの洋上風力政策の進捗 1.案件形成 〇2030 年 ... \- 経済産業省, accessed August 11, 2025, [https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku\_gas/saisei\_kano/yojo\_furyoku/pdf/024\_01\_00.pdf](https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/yojo_furyoku/pdf/024_01_00.pdf) 23. 洋上風力発電に関する諸施策の実施状況, accessed August 11, 2025, [https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/sanyo/dai77/77shiryou2\_1.pdf](https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/sanyo/dai77/77shiryou2_1.pdf) 24. New report forecasts that global infrastructure investment needs could hit $97 tril, accessed August 11, 2025, [https://journalists.medianet.com.au/DisplayAttachment.aspx?j=882726\&s=2\&k=5243336](https://journalists.medianet.com.au/DisplayAttachment.aspx?j=882726&s=2&k=5243336) 25. Global infra investment need to reach $97 trillion by 2040, accessed August 11, 2025, [https://vir.com.vn/global-infra-investment-need-to-reach-97-trillion-by-2040-50857.html](https://vir.com.vn/global-infra-investment-need-to-reach-97-trillion-by-2040-50857.html) 26. Global infrastructure investment need to reach USD97 trillion by 2040, accessed August 11, 2025, [https://www.gihub.org/media/global-infrastructure-investment-need-to-reach-usd97-trillion-by-2040/](https://www.gihub.org/media/global-infrastructure-investment-need-to-reach-usd97-trillion-by-2040/) 27. 新技術・新工法の活用による効率的な維持管理 \- 行政情報ポータル, accessed August 11, 2025, [https://ai-government-portal.com/%E6%96%B0%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%83%BB%E6%96%B0%E5%B7%A5%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%8A%B9%E7%8E%87%E7%9A%84%E3%81%AA%E7%B6%AD%E6%8C%81%E7%AE%A1%E7%90%86/](https://ai-government-portal.com/%E6%96%B0%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%83%BB%E6%96%B0%E5%B7%A5%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%8A%B9%E7%8E%87%E7%9A%84%E3%81%AA%E7%B6%AD%E6%8C%81%E7%AE%A1%E7%90%86/) 28. インフラ老朽化対策のAI点検が橋梁・トンネル劣化予測精度95%を実現し目視点検コストを50%削減する具体的な解決策 \- note, accessed August 11, 2025, [https://note.com/umibenoheya/n/n05fb801be957](https://note.com/umibenoheya/n/n05fb801be957) 29. 経済安全保障論の現在地 \- Marubeni, accessed August 11, 2025, [https://www.marubeni.com/jp/research/report/data/20240130\_KEIZAI\_ANZENHOSHOURON\_NO\_GENZAICHI\_MR.pdf](https://www.marubeni.com/jp/research/report/data/20240130_KEIZAI_ANZENHOSHOURON_NO_GENZAICHI_MR.pdf) 30. 経済安全保障政策 (METI/経済産業省), accessed August 11, 2025, [https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic\_security/index.html](https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/index.html) 31. 防衛費増額の負担は現役世代で広く分かち合うべき(防衛力強化の ..., accessed August 11, 2025, [https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20221124.html](https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20221124.html) 32. 大軍拡のための防衛費増額でわたしたちの暮らしは? \- 東京法律事務所, accessed August 11, 2025, [https://www.tokyolaw.gr.jp/letter/230320/](https://www.tokyolaw.gr.jp/letter/230320/) 33. 防衛力強化と財源確保(Q&A) | ニュース \- 公明党, accessed August 11, 2025, [https://www.komei.or.jp/komeinews/p281034/](https://www.komei.or.jp/komeinews/p281034/) 34. 経済安全保障に関する産業・技術基盤強化 アクション ... \- 経済産業省, accessed August 11, 2025, [https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic\_security/250530actionplanr2.pdf](https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/250530actionplanr2.pdf) 35. 【2025年 最新版】Z世代マーケティング会社10選|成功事例や ..., accessed August 11, 2025, [https://regene.org/p/3169](https://regene.org/p/3169) 36. Z世代とは|育った時代から考える、特徴や価値観 \- 『日本の人事部』, accessed August 11, 2025, [https://jinjibu.jp/keyword/detl/971/](https://jinjibu.jp/keyword/detl/971/) 37. Z世代マーケティングとは?特徴や8つのポイントを紹介 \- MarkeZine(マーケジン), accessed August 11, 2025, [https://markezine.jp/article/detail/47238](https://markezine.jp/article/detail/47238) 38. 今後 10 年の家計金融資産分布と次世代金融 ビジネスへの ... \- 大和総研, accessed August 11, 2025, [https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/asset/20210922\_022544.pdf](https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/asset/20210922_022544.pdf) 39. 世代間資産移転の促進に関する検討会報告(案), accessed August 11, 2025, [https://www.mlit.go.jp/common/001205534.pdf](https://www.mlit.go.jp/common/001205534.pdf) 40. 世代間資産移転と相続税 \- 一橋大学経済研究所, accessed August 11, 2025, [https://www.ier.hit-u.ac.jp/Common/publication/DP/DPS-A685.pdf](https://www.ier.hit-u.ac.jp/Common/publication/DP/DPS-A685.pdf) 41. The Global Wellness Economy Reaches a New Peak of $6.3 Trillion ..., accessed August 11, 2025, [https://globalwellnessinstitute.org/press-room/press-releases/the-global-wellness-economy-reaches-a-new-peak-of-6-3-trillion-and-is-forecast-to-hit-9-trillion-by-2028/](https://globalwellnessinstitute.org/press-room/press-releases/the-global-wellness-economy-reaches-a-new-peak-of-6-3-trillion-and-is-forecast-to-hit-9-trillion-by-2028/) 42. The increase in appetite for obesity drugs | J.P. Morgan Research, accessed August 11, 2025, [https://www.jpmorgan.com/insights/global-research/current-events/obesity-drugs](https://www.jpmorgan.com/insights/global-research/current-events/obesity-drugs) 43. 経済産業省が健康経営を推進するのはなぜ?注目されている理由や、これからの課題について解説 \- Wellier株式会社, accessed August 11, 2025, [https://www.wellier.co.jp/post/column-4](https://www.wellier.co.jp/post/column-4) 44. これからの健康経営について \- 経済産業省, accessed August 11, 2025, [https://www.meti.go.jp/policy/mono\_info\_service/healthcare/downloadfiles/250424\_kenkoukeieigaiyou.pdf](https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/250424_kenkoukeieigaiyou.pdf) 45. ACTION!健康経営|ポータルサイト(健康経営優良法人認定制度), accessed August 11, 2025, [https://kenko-keiei.jp/](https://kenko-keiei.jp/) 46. 2025年、創薬AIが爆発する 資金調達ラッシュの深層|ファーマ ..., accessed August 11, 2025, [https://note.com/pharma\_manage/n/nebe61a560533](https://note.com/pharma_manage/n/nebe61a560533) 47. AI創薬3.0のiSiPへの「AMED認定VC」のD3をリード投資家として、第三者割当増資による総額2.3億円の資金調達を実施, accessed August 11, 2025, [https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000071827.html](https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000071827.html) 48. 医療DXに不可欠なAI問診の活用|デジタルで病院の未来を切り拓く ..., accessed August 11, 2025, [https://md.reserva.be/dx-knowledge/ai-interview/](https://md.reserva.be/dx-knowledge/ai-interview/) 49. 病院の問診もAIに?AI問診システムの仕組みと活用事例を解説 \- Global Axis, accessed August 11, 2025, [https://global-axis.jp/blog/ai-medical-questionnaire/](https://global-axis.jp/blog/ai-medical-questionnaire/) 50. Japan Digital Therapeutics \- International Trade Administration, accessed August 11, 2025, [https://www.trade.gov/market-intelligence/japan-digital-therapeutics](https://www.trade.gov/market-intelligence/japan-digital-therapeutics) 51. Shionogi gets approval in Japan for ADHD digital therapeutic \- pharmaphorum, accessed August 11, 2025, [https://pharmaphorum.com/news/shionogi-gets-approval-japan-adhd-digital-therapeutic](https://pharmaphorum.com/news/shionogi-gets-approval-japan-adhd-digital-therapeutic) 52. The Future of Digital Therapeutics (DTx) \- NTT Data, accessed August 11, 2025, [https://www.nttdata.com/global/en/-/media/nttdataglobal/1\_files/industries/life-science/dtxwp\_20240515\_eng.pdf?rev=77b5f381dfc847079b9a92bdd9b82578](https://www.nttdata.com/global/en/-/media/nttdataglobal/1_files/industries/life-science/dtxwp_20240515_eng.pdf?rev=77b5f381dfc847079b9a92bdd9b82578) 53. 糖尿病治療薬「GLP-1受容体作動薬」をダイエットなどに使うのは適応外 注意を呼びかけ, accessed August 11, 2025, [https://jide.jp/news/3918](https://jide.jp/news/3918) 54. 関係学会等からの医薬品の適正使用に関するお知らせ | 独立行政法人 ..., accessed August 11, 2025, [https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/properly-use-alert/0001.html](https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/properly-use-alert/0001.html)